ヒトと動物の両方にかかる病気をひとまとめにして、「人畜共通感染症」「人獣共通感染症」「ズーノーシス」などと言います。
これらの病気をヒトの立場から見たときには、「動物から感染する病気」ということで、厚生労働省では「動物由来感染症」(厚生労働省ホームページ)(外部サイトへリンク)と呼んでいます。
このページでは特にペットからヒトに感染する病気を中心に、症状や予防法を解説します。
一番大切なこと
ヒトやモノが大規模に世界中を移動している現在、いつ、どこで、どんな病気が出てもおかしくはありません。
それはペットから感染する病気にしても同じです。日本では50年近く発生していない狂犬病も、世界全体を見ると発生していない地域のほうが圧倒的に少ないのです。
これに加えて、珍しい野生動物をペットとして飼われる方も増えており、これらの動物がどのような病気を持っているのかは、あまりよくわかっていません。
「それなら一体どうすればいいの?」という方に、最も簡単で、もっとも大事な予防法をお教えします。それは、
知らない動物(特に野生動物)にさわらない(近寄らない)ことです。
ペットに接するときの注意
自分のペットに触らないのでは、飼っている意味がありませんので、以下にペットと暮らしていくときの注意事項をあげておきます。
ここにあげた点に注意するだけで、大部分の病気は簡単に防げます。
過剰な接触を避ける
口移しで餌をやる、スプーンや食器を共用するなどはもってのほかです。
また、一緒の布団で寝ることも避けたほうが無難です。
特に犬については、しつけの上でも良くありません。
手を洗う
ペットに触った時(他にも、砂場などの野外で遊んだ時、土いじりをした時)は、流水で充分に手を洗ってください。
石鹸は、殺菌消毒の出来るもの(市販品にたくさんあります)をお勧めしますが、普通のものでも大丈夫です。
清潔を保つ
ブラッシングは被毛のある動物の手入れの基本です。また、おとなの犬などは、月に1度程度のシャンプーも必要でしょう。
ペットのカゴ(小屋)、タオル(敷物)、水槽なども常に清潔な状態にあるよう、気をつけてください。
排泄物の始末も動物の種類にかかわらず大切ですが、室内で飼っている場合には、羽毛や乾燥した糞が飛び散ったりしますので、特に注意してください。
野生動物は飼わない
どのような習性を持っているのか、どのような疾病(病気)があるのかなどについての情報が、犬や猫などの一般的なペットに比べて、とても少ないのが野生動物です。
また、動物のための環境(飼養環境)を整えるために、かなりの出費を覚悟しなければなりませんし、種類によっては飼うために特別の許可が必要なものもあり、ペットとしてはお勧めできません。
犬には予防注射をする
動物由来感染症の最も代表的な、そしてもっとも恐ろしい病気の一つである狂犬病は、いったん発生すると、撲滅までに莫大な労力・費用・時間がかかり、最悪の場合は人命まで失われかねない病気です。
日本では約50年間にわたり発生していない病気ですが、これは犬への狂犬病ワクチン接種が大きな助けとなっており、法律上も飼主の義務として明記されています。
犬を飼ったら予防注射、絶対に忘れないで下さい。
おかしいなと思ったら
動物由来感染症の大部分は、その症状が普通のありふれた病気(インフルエンザなど)にとても似ているために、お医者さんでも見つけにくいものです。
治療をきちんと受けているのになかなか病気が良くならないようなときは、飼っているペットの種類や様子が診断の助けになることがありますので、お医者さんに話してみてください。(なお、海外への渡航歴も重要な診断材料になります)
もちろん、病気にかからないことが一番大切で、そのためにはペットの健康状態をきちんとわかっていることが必要です。こちらは獣医さんの分野になりますので、いろいろ相談できるかかりつけの獣医さんを見つけておいて、年に1度はペットも健康診断をしましょう。
どんな病気があるのか
参考までに重要なものをいくつかピックアップしておきました。
病名と病原体 | 原因となる動物とヒトへの感染経路 | ヒトの症状・治療 | 動物の症状 |
---|---|---|---|
狂犬病(ウイルス) | 犬、猫、アライグマ、狐、スカンク、コウモリ、その他ほとんどの哺乳類動物に噛まれることによって感染する | 1ヶ月前後の潜伏期を経て、興奮・錯乱・麻痺などの神経症状を示し、その数日後に呼吸困難で死亡。狂犬病の蔓延地域で犬などに噛まれた場合、症状の出る前にワクチンを接種することが重要。発症(症状が出ること)した場合の治療法は無く、致死率100%。 | 犬の場合は2週間前後の潜伏期。興奮期から麻痺期と経過し、最終的には全身麻痺で昏睡死(致死率100%)する。犬以外の動物では、犬と同様の症状を示すものから、まったく症状を見せないものまで、さまざまなタイプがある。 |
高病原性鳥インフルエンザ(ウイルス) | ほとんどの鳥類。病原体は糞便中に排出され、ヒトがこれを吸い込むと極めてまれに発症することがある。 | そのものずばりのインフルエンザ症状 | 呼吸器症状、下痢、神経症状を示して死亡。 |
エボラ出血熱マールブルグ病(ウイルス) | サル病原体で汚染した血液などを介して感染。 | 突然の高熱と頭痛、筋肉痛、消化管からの出血。マールブルグ病では鼻や口からの出血も見られる。対症療法以外の治療法は無い。 | 発熱と、体表の出血班や消化管からの出血を特徴とし、100%死亡する。 |
ウエストナイル熱・脳炎(ウイルス) | 野鳥、馬を含めた哺乳類一般。野鳥の場合には、鳥を刺した蚊が、ヒトを刺すことによって病原体を媒介。 哺乳類の場合は噛み傷による感染が多い。 | 発熱、頭痛、筋肉痛など。多くの場合1週間ほどで回復するが、場合によっては倦怠感が残ることもある。 | 鳥類ではほとんど無症状。馬では致死的な脳炎を起こすが、その他の動物では軽い症状だけで治癒する。 |
パスツレラ症(細菌) | 犬、猫、家畜犬や猫の口の中に常在している菌が原因となっているため、引っかかれたり噛まれたりして感染 (同じような病気に「猫引っ掻き病」というのがありますが、こちらはもっと症状が軽いものです) | 傷口の腫れのほかに、気管支炎や肺炎などを起こす場合あり。 | 無症状。 |
ペスト(細菌) | げっ歯類(ネズミ、リス、プレーリードッグほか)感染動物の体液に病原体がおり、その血液を吸ったノミがヒトを刺すことで感染が成立。 | 急激な発熱とリンパ節の腫れ、肺炎、敗血症など。適切な治療を行なわないと死亡する。 | 無症状。 |
Q熱(リケッチア) | 犬・猫を代表とし、哺乳類一般に分布糞尿や羊水に病原体が含まれているため、ペットの出産時に感染することがある | 感染しても発症するヒトは50%程度。発症した場合は、インフルエンザに似た症状(高熱、悪寒、筋肉痛ほか)や、肝炎症状を示し、心内膜炎を伴う重症例もある。 | 症状が出ない場合が多い。まれに流産など。 |
オウム病(クラミジア) | 鳥類(インコ、オウム、鳩など)病原体は糞便に出てくるため、乾燥した糞便の飛沫を吸い込むと感染する | インフルエンザに似た症状(高熱、悪寒、筋肉痛ほか)まれに死亡することもある | 下痢など。若い鳥ほど症状が重く、成鳥では無症状のことが多い。 |
トキソプラズマ症(寄生虫の一種) | 主として猫。その他、犬や家畜一般。糞便中に病原体が出てくるので、これを飲み込むと感染する。 | 通常は無症状だが、まれに目や脳の炎症を起こす場合がある。ただし、妊婦の感染による新生児の先天性障害は要注意。 | ほとんど無症状だが、幼い動物では肺炎や腸炎を起こすこともある。 |
エキノコックス症(寄生虫) | 犬、狐糞便中に排出される病原体を飲み込むと感染。 北海道では全域が汚染地域となっているので、沢水などを飲むことも危険な行為の一つ。 | 数年から数十年の経過を取り、悪化するまでは無症状。肝臓に寄生するため、肝機能障害を主とする症状を示し、治療は外科手術による寄生虫の摘出しかない。 | 無症状のまま虫卵を排出しつづける。 |